- 経験者が徹底解説 - 人材紹介営業のリアル
株式会社グローカルのシニアコンサルタント志村匠斗と申します。
今の自分の仕事に言葉にならない違和感を感じている、今の環境では成長スピードが遅いと感じている、など転職を検討するきっかけは様々です。
転職活動をはじめようと考えたとき、人材会社のサービスを目にする機会は増えると思います。すでに転職エージェントと面談をして、自分に合った仕事を探し始めている方もいるでしょう。
そんなとき、ふと「人材の仕事って面白いのかも」「人材紹介という仕事はやりがいがありそう」と考えたことはありませんか。
本記事では、人材業界、特に人材紹介という仕事に興味を持った方に向けて、
- そもそも人材紹介とは
- 人材紹介の仕事内容とは
- 人材紹介の仕事を通して得られる経験やスキルとは
について、実体験を踏まえて紹介させていただきます。
本記事があなたにとって転職活動を良いものにする参考情報となれば幸いです。
目次[非表示]
- 1.自己紹介
- 2.人材紹介とは
- 2.1.人材紹介とは何か
- 2.2.人材紹介のビジネスモデル
- 3.人材紹介における営業職とは
- 3.1.リクルーティングアドバイザー( RA )
- 3.2.キャリアアドバイザー( CA )
- 3.3.その他の補足事項
- 4.人材紹介営業のリアル
- 4.1.あくまでも「営業職」である
- 4.2.企業の要望が正しいとは限らない
- 4.3.求職者の自己認識が正しいとは限らない
- 4.4.自分は何も知らない
- 5.人材紹介営業で得られるスキルや経験
- 5.1.広く浅い業界知識が得られる
- 5.2.採用の流れを知ることができる
- 5.3.悩みや課題の本質を見ようとする姿勢が持てる
- 6.まとめ:介在価値は結果論
自己紹介
まずは自己紹介をさせてください。
私は高校生のときから薬学に興味を持ち、東北大学・東北大学大学院で薬学の研究を行っていた薬学生です。ありがたいことに国立の研究機関で数か月間研究に従事した経験もあります。しかしながら、就職活動を通して「自分のやりたいこと」とはなにかを考え直し、研究職ではなく営業職としてキャリアをスタートしました。
新卒で入社をしたのは人材業界の企業であり、人材紹介の営業職として 3 年間仕事をしていました。その後は転職し、事業企画、営業企画、マーケティング、インサイドセールスなど経験した後、現在は中小企業に対して経営コンサルティングを行う株式会社グローカルのシニアコンサルタントとして仕事をしております。
研究職志望だった私が人材会社を選んだ理由は大きく分けて2つあります。
自分が介在する価値を直に感じられるため
1 つ目は、自分が介在する価値を直に感じられるためです。
企業の経営者と接することができるだけでなく、企業にとって重要な「ヒト」に携わることができる珍しい仕事だと感じていました。自分が人材を紹介することで、お客様である企業の成長を支援でき、結果としてお客様から評価をいただけるというサイクルに非常に興味を持ったことを覚えています。
自分の個性を発揮しやすいと感じたため
2 つ目は、自分の個性を発揮しやすいと感じたためです。
理系の文系就職自体はそこまで珍しくはありませんが、大学院卒かつ薬学を専攻しているとなると、発生確率は極めて低くなります。これまでの人生がそのまま自分のわかりやすいセールスポイントになり得るのは、何も持たない新卒社員にとってとてもありがたいことです。このバックグラウンドを持っているからこそ、自分にしかできない仕事を創れるかもしれないと考えていました。
現在は業界も仕事内容も異なる経営コンサルタントの仕事をしていますが、人材紹介という仕事を経験したからこそ今の自分があると感じています。実際に人材業界での出会いがきっかけでこのような記事を書く機会をいただいているという事実もあります。人生何があるかわからない、というのが本音のところです。
人材紹介とは
人材業界には様々なサービスがあります。就職活動でほとんどの学生が目にする「リクナビ」「マイナビ」、様々なメディアに露出をしている「ビズリーチ」など、名前を聞いたことがあるサービスも多いのではないでしょうか。求人企業と求職者を繋ぐことが人材業界のビジネスではあるのですが、人材業界のサービスの全てが「人材紹介」というわけではありません。ここでは「人材紹介」とは何かを紹介します。
人材紹介とは何か
人材業界の企業が運営するサービスは「人材紹介」だけではありません。
正確な分類があるわけではないのですが、求人企業と求職者を繋ぐ方法で区別すると以下のように分けることができます。
- 求人広告
求人メディアや求人誌に企業の求人を掲載することで求職者を集める
- 人材派遣
人材会社が雇用している人材を企業に派遣する
- 人材紹介
企業が求める人材を探して企業に推薦する
- 就職・転職イベント運営
求職者が集まるイベントを開催して企業と求職者の出会いを作る
- データベース提供
求職者情報のデータベースと求職者へのコミュニケーション手段を提供する
- 採用代行
企業の採用業務全般を請け負う
「人材紹介」とは、人材を募集している企業に対し求職者を紹介するサービスを指します。人材業界の企業によっては、上記の複数のサービスを運営していることもありますが、人材業界の企業だからといって「人材紹介」のサービスを運営しているわけではありません。もし、就職や転職活動で「人材紹介」の仕事を希望しているのであれば、エントリーする企業が「人材紹介」のサービスを運営しているかどうかをあらかじめ確認しておく必要があります。
人材紹介のビジネスモデル
人材紹介は人材を募集している企業に対し求職者を紹介するサービスとお伝えしましたが、ここからは人材紹介の仕組みを説明します。イメージしやすいよう、求人企業から見た人材紹介サービスと、求職者から見た人材紹介サービスの2つの側面から紹介します。
求人企業から見たとき、人材紹介サービスは、自社の求める人材を紹介してくれるサービスといえます。求人企業は人材会社に対して、自社の求める人材がどのような人材かを伝える必要があります。すでに作成済みの募集要項を提供しても良いですし、人材会社の担当者と相談をしたうえで、人材会社に募集要項を作成してもらうこともできます。その後、人材会社から募集要項に合致した人材が紹介されるため、求人企業は紹介された人材を選考フローに載せ、書類選考や面接・面談を行います。
一方、求職者から見たとき、人材紹介サービスは、自分の希望に合致した企業を紹介してもらえるサービスといえます。求職者は人材会社に対して、自分の経験や強みのほか、希望する業界や仕事を伝える必要があります。履歴書や職務経歴書を提出するだけでなく、人材会社の担当者との面談を通して、自分の強みを定量的・定性的に言語化していきます。その後、人材会社の担当者から、希望や条件に合った求人が紹介されるため、求職者は紹介された求人の中から興味のある求人を選び、応募の意思表示をします。その後は求人企業の選考フローに則り、選考が進んでいきます。
以上から、人材紹介サービスとは求人企業と求職者それぞれの要望を聞き、双方を満たすようなマッチングを行うサービスと言えます。とはいえ、人材会社は営利団体です。これらのサービスを無償で行っているわけではありません。
人材会社が収益を上げるタイミングは、求職者の転職が決定したときになります。求人企業が求職者を採用するとき、仕事内容や待遇が記載された労働条件通知書(雇入れ通知書)を交付する義務があります(労働基準法第 15 条、労働準法施行規則第 5 条)。この通知書には、求職者に支払う給与(年収)が記載されています。人材会社は、通知書に記載されている年収の 30~40% の金額を算出し、「人材紹介手数料」として求人企業に請求します。 求人企業は、求職者に支払う給与とは別に、人材会社に対して求職者の年収に応じた手数料を支払う必要があります。
例えば、求職者に交付した通知書に「年収 500 万円」と記載し、求職者の入社が決定した場合、求人企業は人材会社に対して 150~200 万円の手数料を支払うことになります。
人材紹介は高収益なビジネスモデルといわれます。人材会社における商品は「人材」であり、製造原価が掛かるものではないためです。工場はもちろん、究極的には PC も必要なく、求職者を集めるネットワークさえあれば成り立つビジネスです。にもかかわらず、 1 名の入社が決定すると 100 万円以上の売上となるため、損益分岐点が低く、収益を上げやすいビジネスといえます。
人材紹介における営業職とは
人材紹介サービスを運営する企業は、営業職社員を多く抱えています。人材紹介における営業職は、求人企業を担当する営業職である「リクルーティングアドバイザー( RA )」と、求職者を担当する営業職である「キャリアアドバイザー( CA )」の 2 つがあります。
ここでは、RA と CA それぞれの仕事内容を紹介します。
リクルーティングアドバイザー( RA )
求人企業を担当する営業職を「リクルーティングアドバイザー( RA :アールエー)」と呼びます。RA は、求人企業の要望を聞き、要望に合った人材を探して紹介する仕事です。勤める企業や担当する業界や領域にもよりますが、数社から数十社の企業を担当し、その企業の採用成功に向けた支援を行います。
RA が普段やり取りするのは企業の人事や求人を出している部署の管理職です。採用の背景や課題、求める人物像などをヒアリングし、その内容を元に求人票(募集要項)を作成します。作成した求人票は、基本的に次に説明するキャリアアドバイザーが求職者に求人を紹介する目的で使われますが、RA が自ら求職者データベースを活用して、担当する企業に合う求職者を探し、求人を紹介することもあります。
選考中は求人企業とやり取りをしながら、求職者の評価点や懸念点を確認します。この情報をキャリアアドバイザーに伝え、求人企業と求職者それぞれにミスマッチが起きないように進めます。ときには求職者に対して RA が直接説明することもあります。
さらに、優秀な人材が現れたとき、求人の有無に関わらず担当している企業に紹介の打診をすることもあります。このレベルになってくると、RA が自ら採用の機会を創り出して企業の成長を支援しているといえるため、提案要素の強い営業職といっても差支えありません。
キャリアアドバイザー( CA )
求職者を担当する営業職を「キャリアアドバイザー( CA :シーエー)」と呼びます。CA は、求職者と面談を通して、求職者の希望業界や希望職種、経験やスキルなどをヒアリングします。ヒアリングした内容を元に、求職者に合った求人を選んで紹介する仕事です。
求職者が希望する業界や仕事と、求職者の持っている経験やスキルにギャップがある場合は、事情を説明したうえで、求職者が活躍できそうな別の仕事を提案することもあります。また、業界や仕事内容の説明はもちろん、企業に提出する職務経歴書の添削を行うなど、求職者の仕事選びに関する支援全般を担います。そして選考中は RA を介して求職者の評価を聞き、今後の選考に向けたアドバイスや面接対策などを実施することもあります。
中途採用向けの人材紹介サービスの場合、転職に必要な期間はおよそ 3~6 か月です。CA はこの期間求職者の伴走支援を行います。しかし、求職者の満足度が高ければ、求職者が次の転職を考えた際に声をかけられることもあるため、長期にわたって求職者のキャリア形成の支援を担うこともあります。
その他の補足事項
営業職を RA と CA に分けている企業は、人材会社の中でも比較的社員数の多い企業に限られます。小規模の人材会社では、RA と CA の業務を兼務することも少なくありません。これは業界の用語で「両面型」と呼ばれています。
人材紹介営業のリアル
ここまで、人材紹介や人材紹介の営業職の魅力をお伝えしてきました。しかしながら人材紹介は良い面ばかりではありません。経験者である私から見た人材紹介営業の難しさは以下4点にまとめられます。
あくまでも「営業職」である
1 つ目は、あくまでも「営業職」であるということです。
人材会社は営業社員を多く抱えており、営業色が強い会社といえます。限られた社員で利益を最大化しようとするあまり、健全とは言い難い採用支援が行われるケースがあります。例えば、人手不足の業界に対して大量に人材を送り込もうとしたり、成功報酬が高い企業に入社してもらえるよう誘導したりなどがあります。
確かに営業の効率を追及した場合、採用予算を潤沢に持っている企業に対して、出来るだけ多くの人材を紹介し、入社をしてもらうのは効率的ではあります。また、ビジネスモデルとしても入社 1 名あたりの成功報酬が高いほど利益率が高くなる仕組みのため、営利団体である以上は致し方ない部分もあります。RA や CA も営業職である以上、企業の収益を上げる使命があるため、従わなければならないこともあるでしょう。しかしながら、職業選択という人生を左右する意思決定にも関わらず、このような事象が発生してしまうのは、人材業界全体の悪しき慣習ともいえます。企業や求職者に寄り添った仕事が常にできるわけではないということには注意が必要です。
企業の要望が正しいとは限らない
2 つ目は、企業の要望が正しいとは限らないということです。
多くの RA が誤解している可能性があるのですが、企業の採用担当者が採用の専門家とは限りません。また、企業が考える「求める人物像」についても、本当に必要な人物像を表しているとは言い切れません。
採用、広く人員計画というものは、企業が目指すビジョンやそれに基づく事業計画・組織計画があってのものです。本来なら人で解決すべきではない問題であるにも関わらず、無理やり人で解決しようとして対症療法的な採用を行っている企業も一定数存在します。企業の採用担当の要望を聞き、要望に合った人材を紹介するだけでもビジネスは成立しますが、これではただの御用聞きにすぎません。採用を本質的に考え、企業の成長に必要な採用かを見極めること。時には採用担当に異議を申し立ててでも、方向性を正そうとすること。これができなければ、代えがたい存在として担当企業から信頼を勝ち取ることは困難です。
求職者の自己認識が正しいとは限らない
3 つ目は、求職者の自己認識が正しいとは限らないということです。
就職活動において「自己分析」が必要といわれています。しかしながら、自分自身を客観的に捉えることは非常に難しいという現実があります。だからこそ、CA は求職者との面談を通して、求職者の希望や強みを聞き、客観的な目線で評価をする必要があります。例えば、求職者が「ベンチャー企業に行きたい」と言っていても、ベンチャー企業ならではのスピード感や未整備な体制を理解しておらず、単に憧れだけで発言していることもあり得ます。また、求職者が「コミュニケーション能力が強み」と言っていても、面談の質問と回答にズレがあればコミュニケーション能力が強みとは言い難いでしょう。CA は面談を通して求職者の知識や認識、感覚のズレを正し、求職者が言語化できていない求職者自身の良さを気付かせる必要があります。単に求職者の希望や発言を鵜呑みにしているだけでは、CA の存在価値はありません。
自分は何も知らない
4 つ目は、自分は何も知らないということです。
人材紹介の仕事に慣れてくると、自分自身が就活や転職について知識を持った専門家のように思えてきます。企業の採用担当や求職者に対して、上から目線で発言をしてしまうこともあるかもしれません。しかしながら、あなたはあくまでも人から聞いた話を通して業界や仕事を知っているだけであり、実際に現場を経験したわけではないということを忘れてはいけません。仮にその業界や仕事の経験者であっても、数年も現場から離れていれば状況は変わっていきます。だからこそ、人材紹介に関わる人間は、常に新しい気持ちで企業や求職者に向き合うという謙虚な姿勢が求められます。常に企業の成長や求職者の意思決定を支える存在であり続けられるよう、最新の情報を取り入れ自らをアップデートしていく必要があります。
人材紹介営業で得られるスキルや経験
最後に、人材紹介の営業職を通して得られるスキルや経験を紹介します。私自身、新卒で人材紹介の営業職を経験していますが、ここでは人材紹介の仕事を離れてから気付いた内容を中心にまとめています。
広く浅い業界知識が得られる
人材業界出身者は一般的なビジネスパーソンよりも様々な業界や様々な仕事を知っていることが多いようです。RA であれば担当企業のヒアリングを通して、CA であれば求職者との面談や求人票の内容を通して、様々な業界に触れる機会があります。
クライアントがどのようなビジネスモデルで、その担当者がどのような仕事をしているのかをすぐにイメージできるのは、様々な仕事で応用できる武器になります。また、クライアントの事業内容や仕事内容に対して興味を持ち、これらを自然にヒアリングできることも強みといえます。クライアントを解像度高く理解でき、提案や交渉を有利に進めるヒントを手に入れやすくなるため、様々な営業職で活躍できる素地ができるといえます。
採用の流れを知ることができる
皆さんが想像している以上に、採用について理解や知識を持つビジネスパーソンは少ないものです。少子高齢化が進む中、人材不足に悩んでいる企業は非常に多いにもかかわらず、採用活動や採用のトレンドを体系的に理解している企業は多くありません。人材紹介の営業経験者は、求職者をどうやって集めるか、求職者をどうやって口説くかなどを仕事を通して学んでいます。だからこそ、人材紹介の営業職から、企業の採用担当にキャリアチェンジをする方も多くいます。
悩みや課題の本質を見ようとする姿勢が持てる
前の章でお伝えした通り、企業の採用担当者や求職者の発言は、必ずしも本質を言い当てているとは限りません。人材紹介の営業職で高い成果を上げるためには、企業の課題を捉えて「○○のような方を採用した方が良いのではないか」と提案したり、求職者の発言を受けて「あなたが本当にやりたいのは○○ではないですか」と諭したりなど、新たな採用機会を創る必要があります。人材紹介の仕事は相対する企業も求職者も多岐に渡り、PDCA サイクルが早いため、数ある営業職の中でも本質を見ようとする機会に恵まれています。
まとめ:介在価値は結果論
本記事では、私の実体験を踏まえて、人材紹介の営業職の魅力や厳しさを紹介しました。
私が勤めていた人材会社は、毎月のように新しい営業職が入社していました。そして、入社した方の多くが「人材紹介は介在価値が高い」と考えており、ここに魅力を感じたと発言していました。しかしながら、このような素晴らしい夢を掲げて入社したにもかかわらず、なかなか思うように仕事が出来ず、日々の仕事に追われてしまう方も少なくありませんでした。「思っていた仕事とは違う」「やりたいことができない」、そういって早々に次のキャリアを選んでいく方を見送っていたことを覚えています。
私は、介在価値というのは仕事の過程で感じるものではなく、結果論だと思っています。そして、自分が介在した価値を感じるのは、企業や求職者です。たとえ自分が納得するような仕事ではなかったとしても、企業や求職者が自分に対して価値を感じているのであれば、それは介在価値に他なりません。自分が納得のいくような価値が出せていないと感じているのであれば、どうすればよりイメージに近づけるのかを考えて、試行錯誤を繰り返す必要があります。理想と現実のギャップを埋めるために PDCA を回し続けることも、人材紹介の営業職の面白さなのかもしれないと感じています。
本記事が、これから人材紹介の営業職にチャレンジしようと考えている方にとって、新たな気付きを与えるものになっていれば嬉しく思います。